重要な鍵は、食事と運動

コラム

DNAスイッチのオン(遺伝子の働きがアップ)とオフ(遺伝子の働きがダウン)の状態というのは、どういった状態でしょうか?

最大の関心事である癌ということに例えると、私たちは「がんを抑える遺伝子」をほとんどの人は生まれつき持っています。(シリーズ人体・遺伝子より)

しかし、何らかの原因によってそのスイッチがオフになることがあり、それが癌を発症する大きな原因だと言われています。

その遺伝子の働きを元のオンにするために自分で改善できること、気に掛けながら続けていけるようなことには、どのようなことがあるのでしょう?

このようなことを研究する学問が、エピジェネティクス(後成遺伝学)です。

現在、その研究は、DNAに直接働きかける薬の開発へと進んでいっています。

遺伝子のスイッチを切り替え、記憶力や音楽能力、長寿や若返りにいたるまで、多岐にわたって日進月歩の勢いで進められているそうです。

また、そのような薬の一部は、日本でも承認され実用化されています。

開発の進歩、方向性ということから考えてみても、どのように進みどこまでいっているのか、非常に興味のあるところですが、

山中伸弥教授(IPS細胞研究所所長)は、ある対談のなかで『この研究所には、生命倫理を研究しているチームもあって、彼らはまさに「医療はどこまで生死にかかわるべきか」という研究をしています。でもなかなか答えは出ないんです。』と、述べています。

たしかに、どこまで踏み込んでいくのだろうかという空寒さも感じますが、いつかきっと夢のような薬の開発が実現するのでしょう。

私の妻には、妹がいて「一卵性双生児」でした。双子です。

まったく同じDNAを持って生まれています。

彼女たちは、ある時期に二人とも癌を発症しました。

しかし、現在ふたりの運命は違った方向へと歩んでしまいました。その違いは、どこにあったのでしょう。

食事との関係

私たちが日頃から気に掛け、「遺伝子のオン」あるいは「オフ」(老化を進める遺伝子。脂肪をためる遺伝子などは、オフになることを研究する。)状態を保ちながら生活するにはどのような方法があるのでしょうか。

このDNAスイッチという仕組みの発見は、「生まれ持ったDNAは基本的に一生変化しない」という今までの常識にたいして、「DNAには、生まれた後にも柔軟に変化する仕組みがあり、遺伝子の働きを変えうることができる。」ということが分かってきています。

そして、そのスイッチを入れてオンとオフの働きを促すのは、食事と運動が大いに関係があるということが分かってきました。

「地中海食による予防」という大規模な実験が、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高い人にたいしておこなわれました。

地中海食というのは、地中海沿岸諸国スペインやイタリア、ギリシャで多く摂られている食事、野菜、果物、魚が豊富で、特にオリーブオイルやナッツ類を毎日のように食べるのが特徴です。

そのような食事の摂取によって、病気のリスクがどの程度下がるかを統計的に調べた研究です。

その結果、スペイン人の場合は、オリーブオイルやナッツを含む地中海食の摂取が多いほど、肥満や高血圧などの予防にかかわるDNAのスイッチが大きく変化することが分かってきたそうです。

また、日本人の場合には、緑茶に含まれるカテキン、ブロッコリーや大豆、ほうれん草などにも「癌を抑える遺伝子」のスイッチをオンにする効果があるといわれています。

常食としていた「納豆」などは、良い食材なのでしょうね。

運動の大切さ

食事と並ぶ生活習慣の要は、やはり運動です。

体を動かすということで思い受かべるのは、ウォーキングとランニング。

少し堅くなりますが、厚生労働省が定めた運動習慣の定義は、頻度、時間、強度、期間の4要素からなるといっています。

そして運動習慣が身についている人として、「週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者」としており、男性の28,6%、女性の24,6%(平成9年度国民栄養調査)だそうです。

今では、もっと多くの人が体を動かされているような気がしますが、推奨されている生活習慣の一つに「今より10分多く体を動かしましょう。」という指針があります。

10分多く動くのは、歩数にすると約1000歩多く歩くということだそうです。

毎日、少し意識していけば身につく習慣になるかも知れませんね。

精子トレーニング

精子トレーニング、という言葉を聞いたことがありますか?

これは子供を授かりたいと考えているカップルの男性が、子作り前のいっときの時間、ダイエットによってメタボを改善し、精子の中の「メタボに関わるDNAスイッチ」を健康な状態に切り替えて、生まれてくる子供に遺伝させようとするためのトレーニングです。

「なるほどそういうことなんだ。」と、簡単に考えてしまいそうになりますが、これこそエピジェネティクスの最大の研究テーマ「DNAのスイッチは世代を超えて受け継げるか?」ということです。

今までの科学の常識では、食べ過ぎて太ろうが、体を鍛えて筋肉をつけようが、勉強して賢くなろうが、親のDNAスイッチの状態は一代限りのもので、次の世代には、引き継がれないとされていたのが、だんだんと「そうではない、引き継がれていくものもある。」というように変わってきました。

分かってきたことは、自分自身の運命のみならず次世代へと受け渡すバトンでさえも、スイッチは私たち自身が握っている、ということかも知れません。

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